夜を駆ける妄想ランナー
一昨日の飲み会後,ぼくは夜10時の幹線道路を
車で駆けていた。まあ,家に帰るためですね。
土日以外の夜に飲むなんてことはまずなかったので,平日のこの時間,車を走らせていること自体,とてもとても不思議だった。
夜の道路を走る車の数は少ない。
それでもいろんな車が走る。
後続したり,後続されたり,
追い越したり,追い越されたり,
赤信号で止まって平行に並んだり,
青信号で一斉に飛び出したり。
走行中,自分の周りを走る車たちを,
サイドミラー越し,バックミラー越し,
そして左右にある窓から,眺める。
当たり前ですが,車に人が乗ってるんですね。
で,ポッと思うのは,
「この人たちの車内では,今どんな世界が広がっているのだろう」というどうしようもなくくだらない考えでした。
今,この時間に,何を考えながら,どこへ向かってるのかな,という,6歳児が考えだしそうな,そんな素朴な疑問。
我が子に母さんがそんなこと聞かれたら,「どうだろうね,お星様でも取りに行くのかなー」と,メルヘンチックに答えるんじゃないのかな。
本気でお星様を取りに行くのなら,
ハシゴも持って行った方がいいよ。
ぼくは運転しながら,勝手に想像していた。
「実際,彼らは何を考えながら運転しているのか」
怖い女房が待つ自宅に向けて,
うんざりしながら車を走らせているのか。
重要なプロジェクトのプレゼンを
明日控えているため,ソワソワしているのか。
遠距離恋愛中の彼氏が浮気していないか,
失恋ソングを聴きながら不安に思っているのか。
2時間前に何気なく部下に発した言葉を不意に振り返り出して,「あの言い方はまずかったな..」とちょびっとだけ後悔しているのか。
嫌なこと嬉しいこと全部ひっくるめて,
とりあえず爆音で音楽を聴きながら,歌っているのか。
3年前,突然振られた当時の彼女との思い出を振り返って,センセーショナルになっているのか。
「ペンネーム,『明日があるさ』さんからのお手紙です」から始まるお悩み相談ラジオでも聴きながら,ひとり,「わかるわかる!」と共感しているのか。
「同じ職場のあの子と付き合ったとして..」という,ピュアでちょっとだけいやらしい妄想をしているのか。
「このコロナが終わったら,思う存分やってみたいことリスト」の第121個目を考え中なのか。
「部長,あれ絶対カツラだよな。ケケケ」と,一緒にゲラゲラ笑い合える人を見つけるため,「ヅラであること」の仮説でも立ててもいるのだろうか。
何も考えずに,ただハンドルを握っているだけか。
彼らは何を思いながら,どこへ向かっているのか,
全く見当もつかない。
それでも,ぼくは,
見たことも聞いたこともない,なんなら,
「初めまして」とあいさつをする関係ですらない,
縁もゆかりもない赤の他人の運転中のそのときの気持ちを,なんとか見出そうとしていた。
答えはわからないまま,結局家に着いちゃいましたが。
ちなみにぼくは,
「この土日,何しようかな」
という至極つまらないことを想像しつつも,
「5年後くらいの自分」をなんとなく予想していた。
妻がいて,新しい職場で働いていて,
新築の家をそろそろ建てようかとその妻と
話し合っていって,もうちょっとで3人家族になるね
なんて二人で幸せそうに腹をさすっていた。
予想というか,妙にリアルな妄想ですこと。
おそらくぼくの周りを走るドライバーも,
ぼくがそんなこと思っていたなんて想像できたはずがない。
誰も,何も,わからない。
それが脳内であり,人間である。