90字のメッセージ
担任をしていた生徒が学校を
巣立ってもう2日が経った。
もう、なのか。
それとも、まだ、なのか。
まあいいや。
朝は、生徒が来るまで未だに教室で勉強しながら待ってしまうけど、もうドアをガラガラ開けて「おざっす」て言いながら入って来ないんだったなと思い出す。
そうそう、基本的に毎日、一人の生徒とホワイトボードでイラスト合戦をしていた、この令和3年度。
合戦と言っても、一種の「日々のコミュニケーション」かな。
毎朝ホワイトボードに、今流行りのアニメのイラスト、昔流行ったCMのキャラ、世間を賑わせた芸能人なんかを10分~20分かけて描き、これ見よがしに黒板に貼っておく。
登校してきたその生徒が軽くリアクションしたのを合図に、その絵についてちょっとだけ談笑。
そのあと、ぼくは職員室に行き、朝礼が終わってから教室に戻る。すると、もう一つの別のホワイトボードにその生徒が何かしらのイラストを描いてるという、そんなルーティンがぼくにはあった。
それもこの間の卒業式を機に終了。
卒業式を終えて不意に教室に入ると、生徒が教室の一か所に群がっていた。
一人の生徒がホワイトボード裏に、自然を装って何かを隠す仕草を目撃。
むちゃくちゃ怪しいってわけではなかったのでそのことについては特に触れることもなく、「卒業やねぇ」なんて話し、昼前に生徒を見送った。
それから2日経った今日。
誰もいない教室で一人、机に向かって勉強していると、たまたま例のホワイトボードが目に入った。ホワイトボード裏が目に入った。白い紙が不自然にテープで貼り付けられていた。
「そういえば」と思い出し、それを剥がす。
そこにはメッセージが書かれていた。
「楽しい1年間でした!」
「本当にお世話になりました!」
そんな言葉たちがその紙には書かれていた。
「三年生より」と最後に書かれていたけど、間違いなく、ぼくのクラスからだろう。何を書くか話し合い、代表で一人の生徒が書いたに違いない。
誰宛にかは書いていないけど、
きっとあの瞬間のものだろうと思い出すと、
自然と笑みがこぼれた。
宛先がぼくでなかったとしたら、
それはそれでおもしろい。
特別支援学校ということもあり、コミュニケーションは比較的問題ないのだけど、字を書くのが極端に苦手な生徒が在籍していた自分のクラス。
だから短文だし、難しい言葉が書かれていない。
ほとんどの日本人が早い段階で使い古した言葉が並べられている、と言われても仕方ない。
それでもこの手紙は、小説や偉人の名言で使われている言葉より、重みがあるし胸に響く。
「あの子らが書いた」
それだけで心が満たされる。
1年間、担任として密に関わった生徒なだけに、生徒の特性をよく知っているつもりでいる。特に、ぼくに対する扱いを。
・素直にありがとうを言わない
・素直に褒めてくれない
だから、こうやって文字で感謝されるだけでも嬉しい。
言葉だと途中でどうしてもおふざけが入りますしね。
誰かに促されて書いたメッセージじゃないってのがポイント。
よくあるじゃないですか、
教育実習最終日にクラスから寄せ書きもらったり。
あれ担任の先生が裏で「頼むね~」て仕組んでるから感動的な瞬間を迎えられるわけで、一種の演出なんですよ。
でも、これは違う。
メモ帳ですもん(笑)
全然、高級感ないっすもん。
ああ、本当に自分らで考えて行動に移したんだろうなというのが手に取るようにわかる。
君たちは本当おもろいねぇ。